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見解

2018年5月17日(木)

理事会声明:奈良県の医療の質を低下させ、空洞化、崩壊に導く「地域別診療報酬」―その導入も、検討も、断固として反対する

 当会は、このほど開催した定例理事会において、下記の声明を確認しました。

2018年5月17日
【声明】
奈良県保険医協会
2018年度第6回定例理事会

奈良県の医療の質を低下させ、空洞化、崩壊に導く「地域別診療報酬」
その導入も、検討も、断固として反対する

奈良県が提起した地域別診療報酬〜到底是認できない
 荒井正吾奈良県知事は3月28日の定例記者会見で、国民健康保険の都道府県単位化の取り組みについて説明するなかで、同日までに策定した第3期奈良県医療費適正化計画に言及、その要点の一つとして、計画に定めた医療費目標(2023年度、4813億円)の達成が図れない場合に、国保料の保険料の引き上げを回避できる水準まで医療費を抑制できるよう、診療報酬を引き下げることを国に求めることを検討することを打ち出した。これは、医療費適正化計画の策定を都道府県に義務づけた「高齢者の医療の確保に関する法律」(高齢者医療確保法)に併せて盛り込まれている“地域別診療報酬”の規定の発動を求めるものである。
 診療報酬は、保険診療におけるあらゆる療養の給付に要する費用を定めた公定価格で、厚生労働大臣が診療報酬点数表として示す。1点10円で全国一律に適用されるが、この1点単価をたとえば9円として特定の県のみ異なる単価にして適用することが地域別診療報酬である。同法が2008年4月に施行されてから適用された例はこれまでにない。
 県医療費適正化計画に盛り込まれた方針は、県の医療費が同計画に設定した目標数値を上回る見込みの場合に国保保険料の引き上げを回避するために求めるとしており、例示のように単価引き下げが想定される。
 我々は奈良県の保険医および保険医療機関として到底、このような方針は是認できない。

診療報酬は保険診療の内容と質を定める〜低報酬の改善こそ必要

 診療報酬は、保険診療の内容と質を定める性質をもつのであり、上記のような単価引き下げは国が定めた水準を否定し切り下げることになる。それは県民が受ける医療の水準を切り下げることである。
 私たちはこれまでも診療報酬の内容や水準が低いことについて、国に対して大幅な引き上げを求めてきた。しかし、2018年4月に実施された診療報酬改定は技術料に限ればプラスとなったとはいえわずか0.55%にとどまり薬価を含む全体でマイナス1.25%だった。安心・安全の医療を提供するための水準にはほど遠いのが現状で、この改定に向け医療機関の経営状態を調べた医療経済実態調査では、多くの医療機関がたいへん厳しい経営を強いられていることが示されている。

悪しき法制のもとで「医療費増=悪」の観念、必要な医療費は確保めざすべき
 そもそも高齢者医療確保法のしくみに大きな問題がある。老人保健法を改定して同法が制定されようとする時、医療需要の高い年齢集団を集めたうえにその医療費に保険料を連動させる構造の後期高齢者医療保険制度を創設する内容とともに、都道府県に適正化計画という事実上の医療費抑制計画の策定とその推進を背負わせて国が果たすべき責任を放棄する法制度に、私たちは強く反対した。今回の奈良県の姿勢は残念ながら、悪しき法制のもとで懸念された事態の一つが露呈したものと言わざるをえない。
 都道府県単位で必要となる医療費を不当に削ろうとすること、あるいはその負担を地域内で保険料引き上げか診療報酬引き下げの二者択一で解決を図ることに無理がある。
 国の医療費も、県単位でみた医療費も、高齢化がすすむなかで増大することは避けられない。医療の高度化(技術進歩等)も増大要因の一つである。しかし、それは県民に対して適切な医療提供を確保、保障するための費用としてとらえるべきである。そのような認識に欠けるから、医療費の伸張は避けなくてはならない課題とする認識一辺倒となる。「医療費増=悪」という観念に囚われている。その行き着くところは、結局は医療の空洞化であり医療崩壊である。

国が社会保障に責任を果たすよう求めることが第一
 社会保障「改革」の名の下で、法が医療費の財源をもっぱら保険料に求めることを前提にしていること、国の政策路線として医療費抑制、社会保障費抑制を志向していることこそが根本的な問題であることを改めて指摘したい。
 本来、医療をはじめ国民に必要な社会保障の費用は、第一に国の責任で手当をすべきであって、国民の生命や健康、福祉は最優先の歳出課題である。財源は歳出のムダを削るとともに大企業や高額所得者の適切な税負担等に求めることに解決の道筋がある。高齢化が進行しても就業人口は大きく減退せず、将来は人口減少もあり社会保障が永久に青天井で上昇するものでもない。医療をはじめとする社会保障関連分野は雇用面でも大きな社会貢献があり、国の経済成長にも資する。
 県が国に出すべき意見は、同法にもとづく意見ではなく、社会保障に国が責任を果たして、しかるべく国費を充当して都道府県や市町村に過大な負担を負わせないようにすることではないか。

地域や県民に分断や対立をもたらす懸念も
 地域診療報酬の問題は、さらなる課題を抱えていることも指摘しなくてはならない。
 医療費抑制の手段として診療報酬引き下げを認めたら一地域に限らず、医療費抑制の手段として全国に波及の恐れがある。奈良県にとどまらず他府県でも、また国としても同様の方策がとられる先鞭となりかねない。
 県単位で単価を変更することは、同じ保険診療が県境で価格が異なる事態を招き、県境をまたいで患者や医療提供体制の動向に様々な影響を及ぼすことが懸念される。
 医療費負担にも直結する診療報酬(単価)の引き下げは、患者(県民)には一面、負担軽減のメリットがあることから、その一点で支持があるかもしれない。しかし、上述のとおり、患者が受ける医療の水準、質を決めるものであるから、その影響はやがて患者、地域医療に波及していく。
 この課題をつきつけられることで、患者・地域住民と医療者を分断し対立させ、また地域を分断することにもつながる。

県民の受療権を害する「医療費適正化」は本末転倒
 私たちは、医療の諸側面での効率化や合理化の努力を否定するものでない。不当に高額な薬価の是正、予防による健康増進等を通じた医療費の低減はもちろん歓迎される。
 医療費適正化がそうした前進ではなく、必要な医療を削減し、県民の受療権を害するものであってはならない。その意味で、診療報酬(単価)引き下げは本末転倒で、およそ目的を見失った愚策である。

奈良県が悪しき先駆者になってはいけない
 これまで法制度上には存在したが使われることのなかった「地域別診療報酬」について、財務省の財政制度等審議会や、国の経済財政諮問会議で「活用」が議論されつつある。そのとき、奈良県の計画に盛り込まれた実例が示され、国の議論をリードする材料とされようとしている。
 私たち奈良県の保険医は、医療費抑制策の新たな具体化へ奈良県が先鞭をつける、きわめて悪しき先駆者の役割を負わされることにも断固、反対である。

以上


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